
その歯並び、個性か不正咬合か迷ったときに読む記事
八重歯や下の前歯の重なりを鏡で見て、「見た目だけなら今のままでも」と迷う方は少なくありません。とはいえ健診で磨き残しや歯ぐきの炎症を指摘されると、やはり気になるもの。この記事では、代表的な歯並びの乱れ6種類の特徴と、そのまま経過を見た場合に想定される口腔内の変化、そして歯科医院へ相談する目安を整理しました。ご自身やお子様の状態を客観的に見つめ直す手がかりとしてお役立てください。
この記事の要点まとめ
- 不正咬合には叢生・上顎前突・開咬など6種類があり、清掃性や噛み合わせへの影響はタイプごとに異なる場合があります。
- 歯並びの乱れにより、磨き残しや咀嚼のしにくさ、一部の歯や顎への負担が生じる場合があります。
- フロスの通りにくさや歯ぐきの出血、噛みにくさが続く場合は、歯科医院で状態を相談する目安となります。
- 代表的な悪い歯並び(不正咬合)の6つの種類と口内の特徴
- 歯並びの乱れを放置することで生じる3つの健康リスク
- 【状況別の判断基準】様子見できる場合と受診を検討すべきサイン
- 歯並びの悪化を防ぐ日常習慣と歯科医院での診査
代表的な悪い歯並び(不正咬合)の6つの種類と口内の特徴

歯並びや噛み合わせが本来の位置から外れている状態を、歯科では総称して不正咬合と呼びます。ひと口に「歯並びが乱れている」といっても現れ方はさまざまで、清掃のしにくさや顎への負担のかかり方も種類ごとに異なります。まずは代表的な6つのタイプを知り、ご自身の口腔内がどれに近いかを整理してみましょう2。
叢生(乱ぐい歯・八重歯):歯が重なり合って生えている状態
叢生(そうせい)は、顎の骨の大きさに対して歯が並びきらず、前後に入り組んで生えている状態。日本人にみられることが多く、八重歯もこのタイプに含まれます。歯が重なった部分は歯ブラシの毛先が届きにくく、デンタルフロスも引っかかりやすい——という構造上の特徴があります。
鏡で見て前歯がガタガタしている、フロスを通すたびに毛羽立つ。そんな実感があるなら、叢生の傾向が考えられます。重なりの程度が軽くても、清掃が難しい部位が固定されている点は、叢生で気に留めておきたいポイントです2。
上顎前突(出っ歯)と下顎前突(受け口・反対咬合)の特徴
上顎前突は、上の前歯や上顎全体が下顎より前方に位置している状態を指します。前歯が突出すると唇が閉じにくくなり、口が開いたままになりやすい傾向も。口腔内が乾燥すると唾液による自浄作用が働きにくくなるため、口腔環境の面でも配慮が求められます1。
もう一方の下顎前突(反対咬合)は、下の前歯が上の前歯より前に出て噛み合うタイプ。前歯で食べ物を切る動作がしづらく、発音の際に空気が抜けやすいこともあります。骨格的な要因が関わる場合もあり、成長期のお子様では発育の経過を含めて確認していきます。
開咬(オープンバイト)と過蓋咬合(ディープバイト)の噛み合わせ
開咬は、奥歯を噛み合わせても前歯が上下で接触せず、隙間が残るタイプです。前歯で麺類やサンドイッチを噛み切りにくく、奥歯だけに噛む力が集中しがち。指しゃぶりや舌で前歯を押す癖が関与するケースも知られています1。
反対に過蓋咬合は噛み合わせが深く、上の前歯が下の前歯を大きく覆い隠す状態。下の前歯が上の歯ぐきに当たることもあり、前歯や歯ぐきへ持続的な負担がかかりやすくなります。開咬と過蓋咬合は見た目の印象が対照的ですが、いずれも力の配分が偏りやすい点で共通しています2。
空隙歯列(すきっ歯):歯と歯の間に不自然な隙間がある状態
空隙歯列は、歯と歯の間に隙間が空いている状態を指します。顎に対して歯が小さい、生まれつき歯の本数が少ない、上唇の内側のひだ(上唇小帯)が前歯の間に入り込んでいる——要因はさまざまです。
隙間から空気が漏れてサ行やタ行の発音が不明瞭になる場合があり、食片が挟まりやすいという声も聞かれます。なお乳歯列期の隙間は、永久歯が並ぶためのスペースとして生理的にみられることも。お子様の場合は年齢と発育段階を踏まえた確認が大切になります2。
歯並びの乱れを放置することで生じる3つの健康リスク

歯並びの乱れは見た目の問題として語られがちですが、実際には清掃性・咀嚼機能・力の配分という3つの側面から口腔内の健康に関わってきます。そのまま経過を見た場合に想定される変化を整理しておきましょう12。
磨き残しによるむし歯・歯周病リスクの上昇と口臭の悪化
むし歯も歯周病も、歯の表面に付着したプラーク(歯垢)に含まれる細菌が主な原因とされています2。歯が重なり合った部分や隙間の狭い部位は、歯ブラシの毛先が物理的に届きにくく、プラークが留まりやすい環境になりがちです。
毎日ていねいに磨いているつもりでも、構造的に届かない場所があれば磨き残しは生じてしまうもの。歯ぐきの縁に炎症が続けば歯肉炎となり、進行すると歯を支える骨にも影響が及ぶことがあります。停滞したプラークや歯周ポケット内の細菌が産生するガスは、口臭の一因になるとも考えられています。歯並びの乱れは、セルフケアの努力だけでは補いきれない清掃上の難しさにつながる場合があります2。
噛み砕く効率(咀嚼機能)の低下と胃腸への負担
上下の歯が適切に接触していないと、食べ物を細かくすりつぶす効率は下がりやすくなります。開咬では前歯で噛み切る動作が難しく、叢生では特定の部位に噛む動作が偏ることも。
よく噛むことは、唾液の分泌を促し消化を助けるうえで大切な役割を担っています1。噛む回数が減れば、大きな食塊のまま飲み込むことになり、胃腸への負担が増える可能性も指摘されています。食事に時間がかかる、硬いものを避けるようになった。こうした変化の背景に、咀嚼のしにくさが隠れていることもあります。
一部の歯や顎関節への過度な負担と将来的な抜歯リスク
噛み合わせが偏っていると、本来なら全体で分散されるはずの咬合力が一部の歯に集中しやすくなります。負担が集まった歯は詰め物が外れやすくなったり、歯の周囲の骨が痩せやすくなったりすることがあります。
さらに顎の関節や周囲の筋肉にも不均等な力がかかり、顎関節や咀嚼筋の不調につながる場合も。長い年月のうちに支持する骨が失われると、その歯を保存することが難しくなるケースもあり、将来的な治療の選択肢が狭まる要因になり得ます。当院では初診時に噛み合わせの確認を含めた精密検査を行い、将来のトラブルを予防するという視点から、現在の噛み合わせの状態をご説明することを大切にしています。
【状況別の判断基準】様子見できる場合と受診を検討すべきサイン
歯並びの乱れが、すべて治療対象になるわけではありません。清掃が行き届き、噛み合わせにも機能的な問題がみられない軽度の凸凹であれば、定期的な確認を続けながら経過をみる選択もあります。判断のポイントは「見た目」よりも「清掃性」と「機能」——そう捉えると整理しやすいでしょう。
日常のセルフチェック:日々の清掃性や噛み心地による受診目安
次のような項目に心当たりがあれば、一度歯科医院で状態を確認する機会をつくってみてください。
- デンタルフロスが特定の場所で毎回引っかかる、または通らない
- 同じ部位の歯ぐきが繰り返し腫れる、歯みがきのたびに出血する
- 前歯で麺類やサンドイッチを噛み切りにくい
- 食後に決まった場所へ食片が詰まる
- 定期健診で毎回同じ部位の磨き残しを指摘される
- 特定の歯だけ詰め物が外れやすい、すり減りが目立つ
いずれも、清掃性や噛み合わせの偏りが実際の症状として表れているサインと考えられます2。逆に、多少の凸凹があってもフロスがスムーズに通り、健診で炎症の指摘がなく、食事に不自由がないのであれば、予防を目的としたケアを継続しながら経過を追う判断もあり得ます。
当院では、初診の患者さまに治療へ入る前の無料カウンセリングを実施しています。簡易的な口腔内チェックで現在の状態を共有し、ご納得いただけた場合に精密検査へ進む流れです。無理に治療をおすすめすることはありませんので、「相談だけ」という段階でもどうぞお気軽にお声かけください。
お子様の発育段階と大人の歯並びで異なる放置のリスク
お子様と大人では、経過を見た場合に生じる変化の性質が異なります。成長期のお子様は顎の骨が発育の途中にあるため、指しゃぶりや口呼吸、舌で歯を押す癖などが続くと、骨格的なズレが定着していく可能性が指摘されています。就学時健診で指摘を受けた場合、すぐに装置を使うかどうかは別として、発育の状況を確認しておく意義は小さくありません1。
一方、成長が完了した大人では、骨格が急激に変わることはあまりありません。ただし歯周病で歯を支える骨が減ると歯が動きやすくなり、前歯が広がる、噛み合わせが深くなるといった変化が緩やかに進むことがあります。大人の歯並びは「変わらない」のではなく、歯周組織の状態に伴ってゆっくり変化していく場合がある点を押さえておきたいところです。ご家族で気になる点があれば、まとめて確認しておくと通院の負担も抑えやすくなります。
歯並びの悪化を防ぐ日常習慣と歯科医院での診査
歯並びそのものを日常のケアだけで整えるのは難しいもの。それでも、乱れを助長しやすい要因を減らす工夫なら今日から取り組めます。
頬づえや口呼吸などの悪習癖を見直し口元のバランスを保つ
歯は、唇や頬からの外側の力と、舌からの内側の力がつり合う位置に並ぶと考えられています。頬づえ、片側だけで噛む癖、うつぶせ寝といった習慣は、この均衡を崩す要因になり得ます。口が開いたままの状態が続けば口腔内が乾き、唾液による自浄作用も働きにくくなります1。
舌の先を上顎の前歯の少し後ろに軽く触れさせ、唇を閉じて鼻で呼吸する。この安静時の口元を意識するだけでも、負担のかかり方は変わってくると考えられます。当院では外部講師を招いてMFT(口腔筋機能療法)の勉強会を行うなど、口元の機能面へのアプローチにも取り組んでいます。
自力での無理な改善は避け歯科医院の精密な診査で把握する
インターネットで見かける市販の器具や、指で歯を押すといった自己流の方法は、歯や歯ぐきに想定外の力が加わる可能性があるため、控えていただきたい対応です。歯の移動は、支える骨の状態を確認したうえで管理していく必要があります。
当院では歯科用CTやセファロ、口腔内スキャナー(iTero)などを用いて、歯の傾きや骨格のバランス、噛み合わせの状態を立体的に把握します。検査結果はその都度わかりやすくご説明し、治療が必要かどうかも含めて一緒に考えていきます2。
よくある質問
Q1. 歯並びが乱れたままだと、どのような変化が想定されますか?
A. 歯が重なった部位はプラークが停滞しやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まりやすい環境になると考えられています。また噛み合わせの偏りによって、一部の歯や顎関節へ負担が集中する場合もあります。変化の程度には個人差が大きいため、実際の状態は歯科医院での診査でご確認ください。
Q2. 親知らずを残しておくと歯並びに影響しますか?
A. 親知らずが手前の歯を押すことで前歯の重なりが増すという指摘もありますが、因果関係については見解が分かれています。むしろ問題になりやすいのは、生え方によって清掃が難しくなり、周囲の歯ぐきに炎症が起きるケースです。抜歯の要否は、レントゲンやCTで位置を確認したうえで判断します。
Q3. 歯が欠けた状態を長く放置するとどうなりますか?
A. 欠けた部分は汚れが溜まりやすく、しみる症状が出ることもあります。また噛み合う相手の歯が伸びてきたり、隣の歯が傾いたりして、噛み合わせのバランスが崩れる場合も。小さな欠けでも早めにご相談いただくほうが、対応の選択肢は広がりやすくなります。
Q4. 矯正治療に保険は使えますか?
A. 矯正治療の多くは自由診療となります。ただし、厚生労働大臣が定める先天性疾患に起因する咬合異常や、顎の外科手術を伴う顎変形症などでは、条件を満たせば健康保険の対象となる場合があります。該当するかどうかは診査のうえでご説明します。
Q5. 治療が終われば歯並びはそのまま維持されますか?
A. 歯には元の位置へ戻ろうとする性質(後戻り)があるため、装置を外したあとは保定装置(リテーナー)による管理期間を設けます。この期間の使用状況が経過に関わるとされており、定期的な確認をおすすめしています。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
鶴見大学歯学部 卒業(Dental Material賞授与)
鶴見大学にて研修後、西麻布にある医療法人に勤めると同時に鶴見大学歯学部矯正科に非常勤専科生となる
鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座 大学院入学
※イタリア フィレンツェにてIADRのポスター発表 [An analysis of properties of microbiota adhered to alloy framework]
歯学博士授与後、鶴見大学有床義歯補綴講座にて学部助手として勤務
学部助手退職後、非常勤講師として所属
非常勤講師として在籍しながら科学研究費の交付を受け、実験研究を行う
都内医療法人銀座院、東京駅前院にて勤務
漆原歯科・矯正歯科クリニック 院長就任
日本抗加齢医学会 会員
鶴見大学非常勤講師
日本顎咬合学会 会員
日本補綴歯科学会認定医
インビザラインドクターライセンス 取得
臨床研修指導医
ジアーズ 会員
日本歯科審美学会 会員
5-D JAPAN 会員
日本口腔インプラント学会 会員
あわせて読みたい関連記事


